Polycafe@Polyglot Blog

日常生活に多言語を

Dropsのアイヌ語について

疑うことを学ぶ必要がある。

 

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携帯電話の言語学習アプリDROPSユネスコ国際先住民族言語年の活動の一環としてアイヌ語白老方言の学習コンテンツをリリースした。愛のが今までアプリによって電子化したのはこれが初めて。僕のポリグロット仲間の中にもDropsを使っている人がいて、早速アイヌ語にも取り掛かっているようだ。

 

www.jiji.com

 

ただ、学習の際ちょっと注意が必要なようだ。下記は自分でもアプリを使ってみて、個人的に思った注意点だ。

 

1.発音

アイヌ語では日本語と異なり、子音で終わったり、音の間が子音で切れたりする単語もある。しかしながら、声を吹き込んだ人が日本語のフリガナを読むような形で声を吹き込んでいると思われる。あるいはカタカナを使ったアイヌ語の綴りを読みつつも、子音を表す表記を無視して、カタカナのように読んだか。はっきりはしない。

 

例:karuas=カルシ=きのこ

※シは小さいシ

 

2.新造語

存在していないのではないかと思われるアイヌ語がありそうだ。

 

例:onpekotope=オンペコトペ=チーズ🧀

on=発酵する

pekotope=牛乳

 

ただ、気をつけていただきたいのはそういう点があるからこのアプリが全く役に立たないと批判しているわけではないと言うことをご理解してほしい。

 

 

CD付 ニューエクスプレス アイヌ語

CD付 ニューエクスプレス アイヌ語

 

 

 

白水社から出ている教科書に加え、このアプリはアイヌ語の語彙学習に役に立つ。チーズの例があったからといってすべての単語が幽霊単語で占められているわけではないからである。そのため赤い警鐘が灯るクラスの危機言語とされるアイヌ語の基礎語彙の学習がどこでも勉強できるアプリが提供された点はとても素晴らしいことである。ただし、他の辞書や単語のアーカイブを比較しながらDropsを使うことによって、伝統的なアイヌ語と新造のアイヌ語を区別しながら勉強する必要があると考える。

 

ところで、中にはアイヌ語の新造語や日本語訛りの発音なんて耐えられないと言う人もいるかもしれない。しかしながら、まず現実的に考えてアイヌ語のネイティブスピーカーと接する機会は現在、絶望的だ。熟練した学習者の人たちはたくさんいるだろうがネイティブスピーカーと話し、交流する機会は我々のような外国や北海道の外に住んでいる学習者にとって、もはや夢である。恐らく、今生きているアイヌの人たちの第一言語は日本語である。若いアイヌ人には少なくとも一人もアイヌ語母語の若者はいないはずだ。

 

したがって、発音が日本語のようになってしまうのはしょうがないと思う。それにレコーディングされた古老のように話す事は大変な時間と学習が必要だと考える。加えて、アイヌ語を教えてもらう立場の我々が先生や声を吹き込んだ人の発音にケチをつけてもどうしようもないし、失礼ではないか。また、「ちゃんと子音が発音できなければアイヌ人ではないのか?」という話題にも繋がってしまう。まずはとりあえず、ちゃんと勉強することが大切ではないだろうか。そして教える方も「本当はこういう発音なんだよ」と解説できるようにならなければいけないだろう。

 

次に新造語について。チーズのように伝統的なアイヌ語に存在しなかったと考えられる言葉に関しては「新造語」と注釈をつけて欲しい。それがあたかも"伝統的に"存在しているかのような印象を与える事はやめてほしいからだ。


ただ、僕は新しい言葉を作り出すこと自体を止めてはならないと考えている。なぜなら言葉は常に創造的なものであると考えているからだ。言葉は新しい言葉を作り出せなくなって、人間の思考や営みを反映できなくなった瞬間に、本当に絶滅するのだと思っている。例えば日高の路線バスの車内アナウンスの原稿を作る際に、新しいアイヌ語の単語を作り出す必要があった、とのこと。その際に新造語を用いたのはアイヌ語の想像力や生命力を試す試みとして非常に良いものだと考えている。

www.huffingtonpost.jp

 

ただ、文法的には正しいのかもしれないが、学習者の立場から考えるとそれが本当に正しいアイヌ語かどうかと言うのは異なる問題に属する。これからはこれを忘れない姿勢が新造語を作る人たちや我々学習者、そして「アイヌ語を受け継がなければいけない本当の人たち」にも要求されるようになるだろうと考える。