Polycafe@Polyglot Blog

日常生活に多言語を

🇷🇺コルクマイマ!カラチャイ・バルカル語のおはなし

どうしても興味が尽きなくて。

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Къоркъмайма!


カラチャイバルカル語を聴こう。なぜかわからないけど、このコーカサスの言語が聴きたくて、何かいいものはないかと探した。

 


Frozen - Let It Go Karachay-Balkar DVD Version (with S+T)

カラチャイ・バルカル語はロシア国内にあるカバルド・バルカル共和国やカラチャイ・チェルケス共和国で話されるテュルク系の言語だ。ざっくばらんに言えばトルコ語の仲間である。ただ、主な方言のバリエーションが2つあり、その一つがカラチャイ方言、もう一つがバルカル方言となっている。トルコやキルギスにも話者がいることは確認している。トルコには以前、カラチャイ・バルカル系のトルコ人コミュニティーのフォーラムが存在していたし(今はアクセスできなくなっている)、キルギスのフルンゼ(Frunze)にもロシアから1944年にスターリンの命令で追放されたバルカル人たちの集落が存在しているとされている。


On the road we will stop in the village of Frunze, populated by a Balkar ethnic people who were exiled here by Stalin in 1944.There we will enjoy home cooked vegetarian Balkar food (amazing!) and listen to their songs and stories. 

Adventures in Central Asia - Kyrgyzstan

 
一概に言って書き方に関してはそんなに難しくはないだろう。書き方はロシア語ベースでいくと若干変則的とも言える。例えばカーフの音(ق)がないため、「къ」と書いて”q”という音を表したり、喉を鳴らすガイン(غ)という音も書き表せないので、「гъ」と綴ったりする。「ё」や「ю」はロシア語を学んだ人はこれらを思わず「よ」や「ゆ」と読むかもしれない。しかし、カラチャイ・バルカル語においてはドイツ語の"ö"や"ü"の音を表しているようだ。

響きはどうなのだろうか。最終的にはアップルストアでダウンロードできるカラチャイ・バルカル語のコーランを聞いたり、「アナと雪の女王」の"Let it go"のカラチャイ・バルカル語バージョンを聞いたりした。コーランの解説は当然ながら難しすぎて理解はできなかったが、「アナ雪」の方では字幕もあり比較的わかりやすかった。

 

音声を聞いて(字幕も見て)気づいた特徴の一つとしては"-mA"という語尾が目立つ、ということだった。おそらくこれは人称接尾辞だと思われる。それはトルコ語からの類推により考えている。例えば「アナ雪」に出てきた表現で次のような歌詞がある:

Къоркъмайма, энди бир да къоркъмайма!


これをトルコ語で書くと次のようになるだろう。

 

Korkmuyorum/, şimdi bir daha korkmuyorum!

あるいは

Korkmam, şimdi bir daha korkmam!

 

となるだろう。

 

この対応関係から考えるに、къоркъが「怖がる」、майが「〜出ない(否定)」、そしてмаが人称付属語の「私が」という意味になると思われる。これは例えばウズベク語の"qo'rqmayman"を連想させる。

 

それぞれ比べると、それぞれの文法的枠組みがそれぞれ異なることに気づけるだろう。

  1. KB: Qorqmayma(Къоркъмайма)
  2. UZ: Qo'rqmayman
  3. TR: Korkmam

 そのため、動詞の構造から考えるに、カラチャイ・バルカル語はトルコ語より少し遠く、ウズベク語とはトルコ語よりもかなり近い関係にあると考えられる。

残念ながらカラチャイ・バルカルに言及する邦文資料はまだ少ないと言える。最近はテュルクに焦点を絞った本や日本ではあまり知られていないタタールについて熱く語った「タタールスタンファンブック」など、テュルク関係の本が増えてきているという一面がある。コーカサステュルク系民族について紹介する本が増えれば嬉しい。

 

テュルクを知るための61章 (エリア・スタディーズ148)

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